=2==
昔から、彼らはよく兄弟で悪戯をしていた。
例えば綺麗に生けられた花を奇想天外に飾りなおして見たり、運動場の真ん中に落とし穴を掘ってみたり、教室に入ってくる先生が滑るように入り口に水を撒いてみたり、という、可愛らしくそしてそこはかとなく怒りを煽るような悪戯を。
( ´_ゝ`)『兄者がやったんだ』
(´<_` )『ああ、兄者がやったんだ』
ご丁寧にスモックについた名札を小さな後ろ手に握り締め、幼稚園の先生に相対する。
先生は、にこやかな、けれど底冷えする笑顔で彼らを見つめた。ぎゅう、と片方が片方のスモックを握り締める。
从'ー'从『……どっちが兄者くんなのかな?』
その質問にほらきた、と先ほどまでの怯えた顔は何処へやら、彼らはにぃいいと口を曲げて笑った。
( ´_ゝ`)『『どっちだと思う?』』(´<_` )
ひくひく、と先生の口元がひくついているのに彼らは気付かない。
从'ー'从『どっちかなぁ?』
( ´_ゝ`)『『どっちでもどうでもいいじゃないか』』(´<_` )
从'ー'从『どうでもよくないよー? 悪戯をしたらちゃんと怒られないといけないんだよ? ほら、どっちが兄者くん?』
先生の出す殺気(のようなもの)にようやっと気付いたのか、彼らはさっと目を合わせてから、今にも泣きそうな顔でこう言った。
( ´_ゝ`)『『じゃあ、どっちも兄者だ』』(´<_` )
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( ´_ゝ`)流石兄弟は悪戯好きのようです(´<_` )
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=13==
高岡は不機嫌だった。
唯でさえ授業で当てられてむしゃくしゃしていたのに、放課後遊んで其れを発散しようとしたところ、誰一人として付き合ってくれなかった。
むしゃくしゃ度更に倍。今時の女子高校生の見境の無さ見せてやろうか、と思ったが、根が真面目な高岡に一人でそんなはっちゃけた真似が出来る訳が無く、何とも不完全燃焼に夜を迎えてしまった。
一人カラオケで無性に喉が渇いて、目についたファミレスに入る。序に宿題も済ませてしまおう、だなんて考えている辺り矢張り高岡は真面目な気質なのだろう。
从 ゚∀从「ドリンクバーで」
(´<_` )「かしこまりましたぁ」
なんとも覇気の感じられない店員の声を聞き流す。深夜バイトなんてこんなものだと言うくらい理解していた。が、何だか遣る瀬無い気分になる。
( ´_ゝ`)「あの、ご注文は」
从 ゚∀从「だから、ドリンクバーだってさっきも言ったろ。寝惚けてんのかよあんた」
( ´_ゝ`)「あれ? すみません、失礼致しました」
朗々とした声で謝り、店員は困惑したように頭を掻いて立ち去る「あれー、っかしーな」などという独り言が聞こえてきた。
机に肘を突き、深夜の街を窓越しに眺め、店員の足音に耳を傾けていると、ある違和感に気が付いた。
从 ゚∀从「……」
ひく、と高岡の頬がひくつく。
かつん、とリノリウムに制服の革靴が引っかかる音が厭に大きく店に響いた。
从 ;゚∀从「あ、あれ……?!」
かつん、かつんかつん
从 ;゚∀从「なんで、何で、足音が、二つ……!?」
店内には一人の店員しか居ない。
一人しか居ない。
居ないのに。
かつかつん、かつかつん、かかつん、かかつん、かかかかつん、
思考が泡立ちはじめる。
かかかかつん、か、かつん、か、かつん、
(さっき来た店員と最初の店員は同じ人間だったか?)
くるくると文字と単語が脳内で螺旋を描く。
(分裂? 幻覚? 嘘? 切れた? 偽者? 贋作? 双子? ド ッ ペ ル ゲ ン ガ ー ? )
か つ ん。
从 ;゚∀从「……!!」
ばっと机の横を振り返った。
( ´_ゝ`)「「あのー、お客さん、ドリンクバーは彼方になりますので、」」(´<_` )
从 ∀从「あ、あああぁぁあああ!!!!!」
===
=11==
( ´_ゝ`)「よ」
片方がひらひらと両手を振った。兄弟が共同で使っていた部屋は、片付けられて何処か広々としていた。
(´<_` )「あ、おう。ん? 何か久しぶりか?」
( ´_ゝ`)「ああ、かもなぁ。元気してたか?」
とすん、と床に腰を落ち着ける。其れを見下ろすようにもう片方は直ぐ近くに所在無さげに立った。不安定にゆらゆらと揺れている。
(´<_` )「いや元気も何もないだろ、こんなんで」
( ´_ゝ`)「それもそうか」
けらけら、と笑い合い、窓から差し込む夕日に目を細める。
(´<_` )「所でお前はどうだった、元気か?」
( ´_ゝ`)「んな訳無いだろ」
(´<_` )「だよな。にしても久しぶりだなぁ、本当に」
( ´_ゝ`)「何か変だなぁ、お前相手に久しぶりを言うなんて思ってなかった」
(´<_` )「俺もだ。一生言わないと思ってたよ」
===
=14==
( ´_ゝ`)「何か、大成功しちゃったな……」
怒りのオーラを漂わせた女子高生はずんずんと足音高らかに店の前を通った。帰り際に花壇の植木を蹴散らしてから、その自分の行為に、丸で大罪でも犯したかのように慌てて走り去ってしまう。
(´<_` )「流石だな俺ら」
( ´_ゝ`)「怒られたけどな」
(´<_` )「まぁ兄者は従業員でさえ無いからな」
唯一だった客に帰られてしまい、暇になったらしい青年達は同時に溜息を吐いた。
同じようにファミレスの制服を着、同じように俯く様子は鏡合わせのように見える。彼らは一卵性双生児だ。殆ど同一人物と言って間違いない、けれど別人。
零点零零零零壱パーセント程度の塩素の違いで別人となった、同一人物。
勿論、ドッペルゲンガーだなんて恐ろしいものではない。
(#´_ゝ`)「なんだよなんだよ!ちょっとした可愛らしいいたずらだろもうぅ!」
(´<_` )「可愛らしいいたずらにしては演技力に問題があったんだろう」
( ´_ゝ`)「最高の演技力だったじゃないか」
(´<_` )「問題が何時でも不足とは限らないだろう、お兄さま」
( ´_ゝ`)「過剰だったか、弟よ」
ふうむ、と兄と呼ばれた方の青年が顎に手を添えて息を吐く。弟と呼ばれた方はそんな兄弟を一瞥してから、女子高生の残したコップを片付けようと片手にとった。
( ´_ゝ`)「じゃあ、次はどういう趣向で悪戯をしょうか」
(´<_` )「悪戯をする事は決定事項なのか……」
( ´_ゝ`)「客の少ない寂れた弟の職場を明るくしようと尽力するのは兄としておかしい事か?」
(´<_` )「多少遣り過ぎだと思われ」
( ´_ゝ`)「はぅむ」
にべも無い弟の言葉にまた唸りこむ。
兄は、唇を尖らせて憎々しげに弟を睨みつけた。「つまんねーつまんねー」と幼稚園児のように駄々を捏ねる。
(´<_` )「大体あんたは客だろう。客なら客らしく喰いもんでも喰っとけ」
ほらメニュー、と弟はその辺の机から冊子を取り上げて投げた。真剣白羽取りの要領でそれをキャッチする兄。
( ´_ゝ`)「分かった分かった」
ひらひら、と片手を振ってみせ、ありもしないコンパクトを開くような仕草をする。「ラミパスかテクマクかどっちだと思う?」「知るか」「テクマクでいいか……」「何時から兄者は魔法少女になったんだろうな」「魔法少女兄者!」「怒られるぞ」「ごめんなさい!」という会話を経て、へらへらと笑いながら某呪文を呟く。
( ´_ゝ`)「テクマクマヤコンテクマクマヤ……いや、これはちょっとやばいな。結膜マヤコン結膜マヤコン、普段着になーれーいー」
(´<_` )「頭が悪いぞ兄者」
(#´_ゝ`)「な、何だと?!お前は家帰ったらギャグマンガ日和をがっつり読め!」
(´<_`: )「ええー…?そんなアニメ化もしてないようなネタを出されていきなり対応しろと言われても……」
かなり引き気味な兄弟をみやって、ぶちぶちと不満げに眉をしかめながら、店内に誰も居ないのをいい事に着替え始める。
適当感漂うティシャツとジーンズに着替えた兄は、制服をその辺に捏ねふわふわとした足取りで手近なボックス席にばっすんと座り込んだ。
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=12==
( ´_ゝ`)「そうだな………。でも待てよ、一生、終わってんじゃん」
(´<_` )「あ、本当だ」
( ´_ゝ`)「なぁ、今度はどんな悪戯しようか?」
(´<_` )「……そうだなぁ」
ひゅうひゅう、と風が窓に当たった。兄弟の妹が階段を上がる可愛らしい足音がする。
l从・∀・ノ!リ人「あーにじゃー、ごはん出来たのじゃー」
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=5==
みぃんみぃん、と蝉が窓の外で鳴いている。
( ´_ゝ`)「あっひぃ」
(´<_` )「あっちぃ」
ティシャツの襟元を引き延ばし、風を送る。「うるっさいんじゃヴォケぇぇえええ!」と兄が叫ぶと一瞬だけ求愛活動を止めた蝉は、しかしてまた直ぐ羽を擦り合わせ始めた。
弟がつい先日終わったばかりの梅雨のようなじっとりした目で兄を睨む。
(´<_`# )「兄者……、五月蠅い」
( ´_ゝ`)「すまん、我慢出来なんだ」
すっぱん、と障子が開けられ、兄弟の妹が顔を出した。
これまたじっとりした目で兄弟を睨む。
l从・∀・;ノ!リ人「兄者達のが五月蠅いのじゃーあ」
( ´_ゝ`)「おお……こんな時でも突っ込みにくるとは、流石だな妹者」
(´<_`# )「流石だな……ってかうるっさいわヴァカぁぁあああ!!」
( #´_ゝ`)「兄者いい加減五月蠅いわアホぉおお!!!」
l从・∀・#ノ!リ人「どっちも五月蠅いのじゃ、駄目兄者どもめ」
みぃんみぃん、と蝉が鳴いて、ぽろりと落ちた。
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=15==
( ´_ゝ`)「よーし、じゃあメニューのこっからここまで弟者の奢りで」
(´<_` )「奢るか」
兄の広げたメニューをばしんと叩き落とす。「にょわ!」と言う珍妙な悲鳴があがった。
( #´_ゝ`)「おま、仮にも客にその態度は、」
( ´∀`)「兄者くーん」
いきり立って拳を振上げた時、厨房から遠い声が飛んできた。
ぴたり、と双子の動きが凍ったように固まる。
(´<_` )「……呼ばれてるな」
( ´_ゝ`)「ああ」
弟はくるりと方向転換し、厨房に入った。
チーフが不機嫌そうに皿を拭いていた。指紋がつかないように両手にもった布巾をばさばさと振っている。
「生来のんびりした顔をしています」という顔つきの彼がそんな表情をしているというのが可笑しくて、薄ら笑いを堪えながら弟は軽く会釈をした。
(´<_` )「何すかチーフ」
(#´∀`)「さっきからホールでふざけてるようだけど、何やってるモナ。ちゃんと仕事してくれないと困るモナよ!」
(´<_` )「あ、すみません。でもはしゃいでるのは俺の双子の兄弟であって俺ではないので……」
(#´∀`)「そんな子供みたいな言い訳は良いモナ! ったく、この時間帯は誰も働きたくないって言ってるからシフト入れてるものの……人手さえあれば辞めてもらってもいいモナよ?」
(´<_` )「え、それは勘弁して下さい……困ります」
(#´∀`)「じゃあちゃんと仕事するモナ!」
(´<_` )「はい……、すみません……、今は反省しています」
(#´∀`)「聞いてるモナ?!」
適当にチーフの言い分をあしらい、店内掃除してきまーす、とそそくさと厨房を離れる。
(#´∀`)「全く。初めの頃は真面目な良い子だったのに、先月くらいに復帰してから急に様子がおかしくなって……人が変わったようとはよく言うモナ」
チーフの独り言を背中に聞きながら、モップを片手に弟はホールに戻った。猫のような笑みをした兄がそんな弟を迎える。
(´<_` )「怒られたぞ」
( ´_ゝ`)「そーかそーか」
兄はサービスのお冷やをくぴくぴと飲み干した。たぁん、と軽やかにプラスチックのコップが机に叩きつけられる。
( ´_ゝ`)「真面目に働かないと給料落とされるぞ、愚弟よ」
(´<_`# )「誰の所為だと思っている、誰の所為だと」
( ´_ゝ`)「思うに、お前は親しく無い人と喋るときはちょっと気が抜けすぎなんだよ。お前はそうは思ってないだろうが。ってか何それ、普通逆じゃね? って感じだが」
(´<_` )「何をいきなり変な講釈を垂れ初めて居るんだ、兄者きもいぞ」
( ´_ゝ`)「俺が折角『変わって』やったんだから、もう少し人間関係やらを大切にせよと言いたいんだよ。ってかきもいってお前……」
尤もらしくしたり顔をする兄の後頭部を叩き、弟は大きく溜息を吐く。
(´<_` )「何で上から目線なんだお前は……うちの墓に入ってる骨が誰のだと思っている」
( ´_ゝ`)「はて、誰だったかね」
兄はに、と笑って見せた。重力に負けたような気の抜ける笑み。
釣られて弟も口の端をシニカルに吊り上げる。
(´<_` )「爺者の存在を忘れるとは何たる孫だ」
( ´_ゝ`)「ああ、そうだったな」
===
=10==
あれ、と彼は思考する。
丸で俺が死んだみたいじゃないか。
( ^ω^)「流石、どうしたお?」
(´<_` )「ああいや、なんか、あいつが死んでて俺が生きてるっていうのが不思議でなぁ」
なんで俺が生きてるんだ?
墓参りに付き合ってくれた友人は痛々しい表情で花を手向ける。
( ω )「お前が生き残ったのだって幸運だったんだから、そんな事言わないで欲しいお」
彼は首から吊り下げられた右腕を見つめた。白い包帯が網膜に焼き付く。
友人は泣きそうな顔をしていた。
(´<_` )「……そうだな」
ところで俺って兄者だっけ弟者だっけ?
そんな事を言ったら今度こそ本当に友人が泣いてしまいそうで、その言葉は口に出されないまま舌に溶けた。
===
=16==
二人してからからと笑うと、数瞬沈黙が流れた。「所でこの前妹者が、」と兄が話を振ろうとしたところで貸切状態だったファミレスに客が入る。
てぃうんてぃうん、とコンビニのような電子音が静かな店内に響き、客の来訪を告げた。弟は即座に反応し、営業スマイルで扉を確認する。
(´<_` )「いらっしゃいまっせー、二名様ですか……ってあれ、ブーンじゃないか」
入ってきたのは、顔にデフォルトとして笑顔を乗せているような青年と、その後ろにしがみつくようにして店内を伺っている少女だった。
見覚えの在る、所か殆ど恒例のように会っていた友人の顔に眉を跳ね上げ、接客用の笑顔を崩した弟は気の抜けた声を出した。
( ^ω^)「おっお、流石じゃないかお。バイトかお? 怪我はもういいのかお?」
(´<_` )「おう、先月から勤めててな。久しぶり。こんな時間に何の用だ? ってか怪我? 俺のことを馬鹿にしてるのか。火の鳥と呼ばれた男だぞ」
( ^ω^)「ファミレスに着たんだから飯喰いに来たに決まってんお。火の鳥に謝れお。漫画の神様に謝れお」
(´<_` )「ああ、それもそうか。……ところで、その後ろにくっつけてんのは悪霊かなんかか?」
( ^ω^)「ツンだお。怖い事言うなお……お前、このファミレスの怪談知ってんのかお?」
青年の言葉に弟はかくりと首を傾げて右上を眺める。後ろにくっついた少女は「ひっ」と声を上げて更に縮こまった。
面白いなぁおい、と遠くから其の様子を見ていた兄はお冷を入れなおす。
(´<_` )「怪談?聞いたことないな」
( ^ω^)「……ここのファミレス、店員の足音が増えるらしいんだお」
にやり、と笑みの上に更に笑顔をかさねて青年は言う。むしろ今日はそれ目当てできたんだお、と口元をゆがめた。
うわー、こいつ性悪っぽい笑顔にーあーわーねー、と弟は内心で思った。本人はちょっと楽しそうで、後ろの少女はぷるぷる震えていた。
( ^ω^)「先月くらいから、『マジ』だってこの辺で噂になってるんだお。深夜にこのファミレスに来ると、一人しか居ないはずの店員の足音が増える……って言う」
(´<_` )「それで、確かめに来たのか?」
( ^ω^)「うんだお」
(´<_` )「ツンひっさげて?」
( ^ω^)「怖いなら別に来なくても良いって言ったけど、聞かなくって」
ぷ、と弟は笑う。
(´<_` )「それお前、悪戯だよ」
( ^ω^)「は?」
ξ゚⊿゚)ξ「え?」
ブーンも、その後ろにしがみついていたツンも初めて口を開き、ぽかん、となった。
まん丸く広げられた目と口が六つの大穴を作る。弟だけがにやにやと得意げに笑っていた。
(´<_` )「ちょっとした悪戯でな、怪談作るのも案外簡単なもんだ」
( ^ω^)「も、もしや……お前が仕掛け人かお?!」
(´<_` )「あーまー広義的に言えばな」
( ´_ゝ`)「俺が主犯ー」
何処から現れたのか、兄が弟の肩口からひょいと顔を出す。その片手にはお冷。
ξ;゚⊿゚)ξ「ど、道理で嘘臭い話だと思ったわ! どうせこんなのだろうと思ってたのよ! もう! 楽しみにして損したわ!」
( ^ω^)「いやツンまじでさっきまでぷるぷる震えてtせgふじktrひでぶ」
ξ;゚⊿゚)ξ「はっ早く席に案内しなさいよ! 仕事でしょ!」
(´<_`; )「あ、ああ、すまん……えっと、ブーン、大丈夫か?」
(#)ω/(#)「だいじょばない……」
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