あーあ、死にたくないなぁ。
彼女が呟いた言葉は虚空に消えていった。霧散といったほうが正しいのかもしれない。散り散り解々になっていったか細い声は古ぼけた一軒屋に向かっていた。
僕はその隣で彼女を見ていた。
危険のない安全地帯で、ただ、立っていた。
一歩彼女に歩み寄れば、僕の命は消し飛ぶかもしれないから、立っていた。
( ><) 「頑張って下さい、なんです」
('、`*川 「あったりしゃりきのこんこんちき」
に、と笑ってみせる。無責任な僕を笑ったのかもしれない。
彼女のミルクティ色の髪がさらさらと舞った。
('、`*川 「にしてもお笑い草ねー」
ふわふわとした仕草で一軒家を仰ぐ。僕も其れに習ったけれど、血が足りていないのかぐらりと地面が揺らいだ。彼女が支えてくれようとするのを、避ける。
おぞましいものを避けるように、避けて、しまった。
('、`*川 「……あ、ごめん」
( ><) 「……ごめんなさいなんです」
気まずい空気が漂う。
足元のアスファルトがぐらぐらと揺らいでいるような気がした。
実際、揺らいでいても不思議ではなかった。なんて言ったって世界の終わりだから。
もう一度、一軒屋を見る。小さな平屋建ての、今に倒壊しても何も不思議ではない一軒屋。イメージとしては何かおばあさんとおじいさんがのんびりと暮らしている感じ。午後の縁側にはきっと温かい陽が差すに違いない。
そんな一軒家に、
( ><) 「神様が引き篭もってるとか、わけわかんないんです」
('、`*川 「だよねー」
( ><) 「神様がワカッテマスくんそっくりとか、わけわかんないんです」
('、`*川 「だよねー」
( ><) 「伊藤さんが死ななきゃ世界が終るとか、わけわかんないん、です!」
('、`*川 「……だーよーねー」
少しだけ悲しそうに伊藤さんは言った。けれど笑っていた。仕方ないよ、と言ってかしかしと後頭部を掻いてみせる。
カッターの首元についた赤いネクタイが、風も無いのに揺れていた。
('、`*川 「世界で一番いらない人間が死ぬように、したんだよあいつは。そういう風に選んだんだよ、私を」
それが世界の選択か。
それが、彼の選択か。
そんなの、
( ><) 「……分かんないんです」
そんなの、
( ><) 「なんで伊藤さんがそんなに冷静なのかも」
そんなの、
( ><) 「なんでそんなに簡単に死ねるのかも」
そんなの、
( ><) 「なんでそんなに、簡単に諦められるのかも」
そんなのって、無いだろう。
( ><) 「分かんないんです!!」
叫んだ僕は、やっぱり安全地帯に居た。
彼女から一歩遠ざかった、安全地帯にいた。
('、`*川 「……あは」
伊藤さんは、綺麗に笑った。
綺麗に笑って、笑って、笑って、僕を置いて悠々と歩き出した。一軒屋の玄関にある、旧型の黄色いチャイムを押す。
ぴんぽーん、と可愛らしい音がした。
( <●><●>) 「伊藤なのはわかってます」
がらりと姿を現したのは、僕らの友人にそっくりな、”神様”
学生服を着て、其の上から割烹着を着て、しゃもじを持っている。
最後の最後なんだから、突っ込まない。
( <●><●>) 「随分帰りが遅かったですね」
('、`*川 「うん、まぁね」
( <●><●>) 「ここで死に晒すは必定、わかってます?」
('、`*川 「うん、まぁね」
( <●><●>) 「そうですか。それでは、」
「おかえりなさい、ペニサス伊藤」
しゃもじが、伊藤さんの胸に突き刺さった。
('、`*川 「ただいま」
伊藤さんは、笑ってしゃもじを胸に突き刺したまま僕をゆるりと振り返った。
血は出ていない。
彼女は帰っていくのだ。
('、`*川 「ビロードくん、またあしたね」
伊藤さんはひらひらと手を振った。奥で神様は「今日の晩御飯は散らし寿司ときゅうりの酢の物です」とか言っている。
( ><) 「バイバイなんです!!」