=4==
ブーンが掃除当番だと言うので、それをぼんやり待つのも癪に思い図書室へ向かう途中、ツンは不意に足を止めた。
ξ゚⊿゚)ξ「ん?こんな所でどしたの、兄者」
図書室へと続く廊下の途中で、所在無さげに立っている少年にツンは声をかける。
ゆらゆらと微動しながら虚空を見上げていた少年は、確かにクラスメイトの友人だった。
少年は数瞬間を開けてから「あ、おう」と返事を返し、
(´<_` )「すまん、俺弟者だ」
気まずそうに頭を掻いた。
ξ゚⊿゚)ξ「あー、ごめん。間違えたわ。小学校の頃は私服だったから何とか見分け着いたんだけどねー。制服になってからどっと分かんないわ、あんたら」
(´<_` )「どうもすまんな、ややこしくて。最近親兄妹にまで間違えられるようになったし、もう駄目かも分からんね」
ξ゚⊿゚)ξ「あはは、洒落になんないわ、それ。っていうか何、どうしたの? こんな所でぼーっと」
(´<_` )「あーうん」
ちょいちょい、と校舎と図書室をつなぐ渡り廊下に出る為のガラス戸を指さす。
ツンもそこを注視した。
直立している積もりなのだろうゆらゆら揺れる学ランの姿が見える。次いでに先輩らしい女子生徒のセーラー服の姿も。
(´<_` )「兄者が何か呼び出されてな。それ待ちだ。図書館に行くならちょっと待ってやってくれ。雑談くらいなら付き合うから」
ξ゚⊿゚)ξ「ん、いいわよ」
ツンは頷いて、もう一度ガラス戸のほうを伺う。
ξ*゚⊿゚)ξ「うわ、あれって美和先輩じゃない……美人って有名な。なかなかやるわね、兄者。兄者の癖に」
(´<_` )「全く知らん先輩から呼び出された殺される! って俺に泣きついてきたがな」
ξ;゚⊿゚)ξ「駄目野郎ね……もしくはブラコン?」
(´<_` )「あいつにとって告白イベントって二次元の産物だからじゃないか。全く告白って発想してなかったし、今もかなりびびってるぞ、あれ。恐怖的な意味で」
ξ;゚⊿゚)ξ「うっわぁ……。ってか、あんたのがこういう事向いてる感じよね。向いてるっていうか、端的に言うともててそう」
(´<_` )「はっ……有り難い言葉どーも。まぁもてはせんが、経験ならあれよりはあるだろうな」
ひらひらとガラス戸のほうを指さす。
ξ゚⊿゚)ξ「先輩間違えて無いでしょーね、あんたと」
(´<_` )「名指しじゃ無かったみたいだから、その可能性も無きにし」
ξ゚⊿゚)ξ「まじで? やばいじゃない、それ」
(´<_` )「これで兄者が俺の名を騙って付き合い始めたりしたら、もうドラマだよな」
ξ゚ー゚)ξ「そのうち発覚してさ、好きになったのは弟者、でも愛を育んできたのは兄者、私はどうすれば……?! みたいになんのね」
(´<_` )「俺が横恋慕すれば完璧か。ありえねー」
ξ゚⊿゚)ξ「でもどうする?そうなったら」
(´<_` )「簡単」
へらっ、と少年は笑う。やはり双子だ、とツンは思った。
兄と同じように笑うんだなぁ。
(´<_` )「入れ替わったまま付き合えば良いんだよ、ばれないように」
ξ゚ー゚)ξ「あはは、なにそれ、さいっあく」
( ´_ゝ`)「そうだそうだー、最悪だぞー」
(´<_` )「あ、兄者」
ξ;゚⊿゚)ξ「うわっ何分裂してんの怖っ!」
( ;´_ゝ`)「「分裂?!」」(´<_`; )
少年の肩口からその片割れが現れる。唐突な登場に思わず大声をあげてしまった。
ξ;゚⊿゚)ξ「び、吃驚したぁ……行き成り出てこないでよ」
(´<_`; )「確かに母親の腹ん中で分裂はしたが……怖って、怖って」
( ;´_ゝ`)「まさかそんな率直におま、昔の事じゃん……許してえな……」
ξ;゚⊿゚)ξ「ご、ごめんって!ちょっと吃驚しちゃって」
ずぅうん、と予想以上に凹む兄弟をなだめ、不意に左手に巻いた腕時計を見る。
ξ゚⊿゚)ξ「っと、そろそろ掃除終わるわね。図書室行けなかった……」
(´<_` )「ん? 邪魔してたか? すまんな」
ξ゚⊿゚)ξ「んー、まぁ別段用があった訳じゃないし、暇が潰せれば良かったのよ」
( ´_ゝ`)「「あー」」(´<_` )
兄弟で顔を見合わせ、頷き、にやにやと笑う。あれだ、今日ブーン掃除当番だったから……。ああ、ほうほう。
ξ゚⊿゚)ξ「な」
( ´_ゝ`)「ほら早く行け、チャイム鳴るぞ」
(´<_` )「ブーンが待ってるぞー」
ξ*゚⊿゚)ξ「なっ、そんなんじゃなっ! ブーンが一緒に帰ろうって五月蠅いからっ、仕方なく、仕方なくなのよ?!」
( ´_ゝ`)「はーいはい、はよ行けぃ」
勘違いしないでよね! と捨て台詞を吐きながら走っていくツンの後ろ姿を兄弟はぼんやり見る。
( ´_ゝ`)「あの先輩、弟者のことが好きなんだってさ。俺から言ってくれって言われたから『俺が弟者ですよ』って言っちゃった。ごめん」
(´<_` )「お前なぁ……俺が横恋慕しなけりゃならないフラグを立てるなよ」
( ´_ゝ`)「いや、すまんって。何のフラグか知らんけど。んでさ、取り敢えず保留にしといたんだけど、どうする?」
(´<_` )「さあ? 流石に色恋沙汰で悪戯はしたら殺されそうだしな。お前が考えといてくれ」
( ´_ゝ`)「あー、はいはい分かったよ、了解。三択王と呼ばれた俺の神技を見るが良い」
(´<_` )「サンタ喰おう?」
( ;´_ゝ`)「怖っ!」
===
=17==
襤褸切れのようになったブーンを引きずるツンを先ほどまで兄と談笑(?)していた席まで連れていく。
机の上には空になったプラスチックのコップが置いてあった。
(´<_` )「こちらの席に、……と、すまん、水片づけて無かったな」
( ^ω^)「店員が店の水勝手に飲むなおwww」
(´<_` )「いや俺が飲んだ訳じゃないし」
( ´_ゝ`)「というか回復早いなお前」
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ私ドリアで」
( ^ω^)「おっお、ドクオも呼ぶからオーダーは待つお、ツン」
何時の間にか席にちょこんと座り、メニューを広げているツンをブーンが押しとどめる。はええなコイツ……と兄弟の思考は珍しく一致した。
首をかしげて兄がブーンに問いかける。
( ´_ゝ`)「へ? ドクオも居るのか?」
(´<_` )「何で入ってきて無いんだ?」
( ^ω^)「怖いからって外で待ってんだお」
(´<_` )「外で待ってる方が怖くないか……? 治安的な意味で」
( ^ω^)「そう言う所がドックンらしいお」
( ´_ゝ`)「まぁ、らしいっちゃらしいな」
真っ青な携帯を取り出し、ぴろぴろと何やら操作する。程なくしてまたてぃうんてぃうんと電子音が鳴った。
('A`)「なんだよ……、お前らの悪戯だったのかよ」
顔色の悪い青年が顔をしかめて入ってくる。
少女がひらひらと手を振るのに返事をして、三人が固まっている机に幽鬼のような足取りで寄ってきた。
何処かお体悪いんですかと聞きたくなるような歩き方だが、これが彼の素だと知っている四人は全く意に介さない。
(´<_` )「いや、悪いな」
('A`)「まぁ本物とかじゃなくて安心したけどさ」
( ^ω^)「ドクオ、幽霊とか信じちゃってる人なのかお? ふひひwwww」
('A`)「うっせー、俺はただ単にびびりなだけだ」
ξ;゚⊿゚)ξ「何で胸張って言うのよ……」
===
=1==
从'ー'从「ねぇねぇブーン君、どうやれば兄者君と弟者君がわかるの?」
( ^ω^)「お? せんせいわからないのかお? かんたんだお? ねー」
('A`)「ん」
ふっくらとした幼児が、傍らで砂の山を叩く幼児に首を傾げる。子供らしい乳臭い仕草でもう一方も頷いた。
( ^ω^)「よくいたずらするほうがあにじゃだお!」
('A`)「え? ぎゃくだろ? よくいたずらするほうがおとじゃ」
( ^ω^)「えー! ちがうお! あにじゃだおー!」
('A`)「おーとーじゃ!」
む、むむむ、と睨み合う。
从;'ー'从「け、喧嘩しないの。ほらほら、落ち着いてー」
(´<_` )「ん? どうしたんだ? ぶーんにどくお、けんかか?」
ひょこ、と兄弟の片割れが先生の後ろから顔を出す。其れに向かって二人がびしりと人差し指を突き立てた。
( ^ω^)「「あっあにじゃ!」」('A`)
(´<_` )「ん? なんだ?」
从;'ー'从「何でわかるのかな……?」
( ^ω^)「「わかるもんねー」」('A`)
(´<_` )「え? なに? なに?」
===
=18==
(´<_` )「で、オーダーは?」
('A`)「あ、おおう、じゃあ俺コーヒーで」
( ^ω^)「僕はコーラお願いしますお」
ξ゚⊿゚)ξ「え? 何? 飲み物頼む雰囲気なの? じゃあ、アイスミルクティにするわ」
(´<_` )「畏まりましたーっと」
( ´_ゝ`)「あ、待てこら、俺も行くー」
===
=19==
かつかつと足音を鳴らせて立ち去る後ろ姿を見、ブーンは少しだけ声を潜めた。
( ^ω^)「……元気そうで良かったおね」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
('A`)「……」
ツンは笑顔を気まずげな表情に代え、そうね、と消え入りそうな声で呟いた。ドクオは忌々しげな表情で右中空を眺めへの字に口を噤んだ。
===
=20==
(´<_` )「はい、大変お待たせいたしました、コーラにコーヒーにアイスミルクティになります」
( ^ω^)「おっお」
('A`;)「うーい……ってホットかよ、この暑いのに……」
(´<_` )「だってお前アイスって言わなかったし」
ξ゚⊿゚)ξ「まぁいいじゃない、此処クーラー効いてるし」
( ´_ゝ`)「チームマイナス六パーセントに真っ向から喧嘩売ってるもんな」
('A`;)「そうか……そりゃそうだけど……まぁいいか」
ドクオががっくりと頭を垂れ、胡乱な雰囲気がBGMに混じった時、
( ゜ω゜)「アッー!!」
がたたん、と唐突にブーンが立ち上がった。
四人分の視線が彼に集中する。
( ゜ω゜)「DVDの返却期日明日の七時だったお!」
ξ゚⊿゚)ξ「「はぁ?」」('A`)
( ゜ω゜)「まだ一本も見てねぇお!! 帰るお!! ドクオ勘定宜しく!」
一口も飲んでないコーラを放って、ぱしんと代金を机に叩きつけ「ラーゼフォン! フリクリ! カーボーイヴィバップ!」とか叫びつつだばだばと走り出す。
ξ゚⊿゚)ξ「なっ、ちょ、待ってよブーン!!」
少女も急いでミルクティを飲み干し「ごめん、私も行くわ、お金お願い」と代金を慌てて机に置いた。これまた「待ちなさいよ、こらっ!」などと騒がしく走り去っていった。
('A`;)「お、おう……」
(´<_`; )「あざーしたー…」
(;´_ゝ`)「慌ただしい奴らだな……」
弟と同じように立っていた兄が青年の残したコーラの前によっこいしょと座る。
(´<_` )「そういやお前等、何で来たんだ?」
('A`)「歩きだ」
(´<_` )「ふーん……」
( ´_ゝ`)「お前等の下宿って此処から近かったっけ?」
('A`)「あー、うん、まぁ、散歩がてらだな」
( ´_ゝ`)「そうかー」
静かなBGMが空間にのたりと寝そべる。
('A`)「昔からさ、お前等ってよく入れ替わって遊んでたよな」
唐突に昔話を始めたドクオを、かくんと双子は同時に首を傾げてさも不思議なものをみるように眺める。
(´<_` )「……そうだけど、どうした?」
('A`)「いや、俺もさ、ブーン程じゃないけど、お前等を見分ける自信あんだよ」
( ´_ゝ`)「でも今日はブーン見分けれんかったっぽいけどな。名字呼びだったし」
兄が愉快そうに笑いながら言う。そうか、と青年は頷き二人から目を逸らした。
('A`)「確かにお前等、顔格好は全然見分けつかんけど、表情とか言葉遣いとか全然違うから結構分かりやすいのな」
(´<_` )「そうだったのか……今度から悪戯の参考にする」
('A`)「黙って無表情にしてりゃわかんないぞ」
( ´_ゝ`)「へー」
('A`)「まー、でも、動いたら仕草とかで分かるがな、俺は。多分、ブーンも」
頷く双子。すごいなと兄が呟くと、青年は少しだけ誇らしげにすげーだろと口元を緩めた、がすぐに視線を落とす。
('A`)「でもさ、今俺、お前等がどっちがどっちか、わかんねぇ」
かた、と静かに机に伏せる。からりとコーラの中の氷が鳴った。
('A`)「お前等、どっちが死んでんの?」
===
=9==
こう言う場面で、ドクオは何と言えば良いのか、知らなかった。
割と一般的な十九歳男子よりも葬式に出席した回数は多い筈なのだが、母から教わったお悔やみの言葉は何をどうやっても喉に引っかかるばかりで苦い味を舌に残していた。
喪服も、今一しっくりこない。
l从・∀・ノ!リ人「ドクオさんなの、じゃ」
暗く沈んだ可愛らしい声に振り返ると、夏服のブレザーに身を包んだ少女がしんなりとした顔つきで立っていた。
l从・∀・ノ!リ人「あの、どうぞ兄の顔、見て遣って来て下さいなのじゃ」
('A`)「あ、いや、さっき見てきた。有り難う」
l从・∀・ノ!リ人「そうですか……。あ、どうぞ上がっていってお茶でも飲んでいってほしいのじゃ。裏……、はちょっとばたばたしてるから、二階に上がって貰えれば……」
('A`)「いや、そろそろ火葬場行くんだろ?流石にそこまでは着いて行けないし」
l从・∀・ノ!リ人「ドクオさんなら多分納骨だってさせてもらえるのじゃ。おっきい兄者も居ないし、代わりに、」
('A`)「そんな訳には行かない」
少女は俯いて「ごめんなさい」と呟いた。
l从・∀・ノ!リ人「それにしても、ちっさい兄者は幸せ者なのじゃ。わざわざ街からたくさんの友達が見送りに来てくれてたのじゃ」
('A`)「うん……だな」
ドクオは何とも言えない気持ちで少女から目をそらす。
田舎の葬式は、斎場で行われない事がままある。流石家もそうらしく、障子の外された仏間と北座、南座に参列者が集まっていた。
見慣れた顔から、見慣れない顔まで。
ざわざわとした小さな喧噪と嫌になるような陽気に泣きそうになる。
@#_、_@
( ノ`)「妹者、お茶を運んでくれないかい」
l从・∀・ノ!リ人「あ、はーいなのじゃ」
名前を呼ばれた少女は「じゃあ、ちょっと失礼するのじゃ」とふわふわとした足取りで立ち去ってしまう。兄と似た、その歩き方。
何処か萎えたような印象を受けたが、泣き腫らした痕は見えなかった。
ドクオは、其の状態を知っている。
母が死んだ時の自分と一緒だ、と。
===
=21==
真夏にも関わらず、ひんやりした声が世界を凍らせた。
BGMが相も代わらず呑気に垂れ流れている。
( ´_ゝ`)「どっちだろうなー」
沈黙を破ったのは、兄と呼ばれる青年の呑気な声だった。
(´<_` )「どっちも何も、お前は葬式に来てたんだろ」
('A`)「行ったよ……弟者の葬式」
(´<_` )「だったら生きてるのは兄者に決まってんだろ」
('A`)「でも、お前は、弟者だろ?」
ファミレスの制服を来た青年を指さす。弟者と呼ばれた青年はにこりと笑った。
(´<_` )「どうだろうな?」
兄のように、自分らしく、無邪気に、シニカルに。
(´<_` )「兄者が弟者みたいに振る舞ってるだけかもしれないぜ?」
('A`)「だからわからんっつっただろ……」
がしがしと頭を掻き回す青年を微笑ましげに見て、双子は口元を緩めた。悪戯成功、とでも言うように視線を交差させる。
( ´_ゝ`)「んー、そうだな、選択肢をやろう」
にっこりと私服の青年が笑みを作る。制服の青年と同じように、弟のように、自分らしく、シニカルに、無邪気に。
( ´_ゝ`)「一つ、弟者が死んでる。二つ、兄者が死んで、弟者が兄者になりすましている」
(´<_` )「さぁ、どっちだ?」
鏡合わせに立ち、両手を広げてみせる。
('A`)「わかんねぇよ……」
( ´_ゝ`)「まぁ、俺らもわかんないんだけどな」
私服姿の方が無表情に戻って口元だけを曲げた。
(´<_` )「お前の言った通りさ、昔から入れ替わりゲームとかばっかしてたから、どっちが本当の兄者なのか、どっちが本当の弟者なのか、わっかんないんだよなぁ」
制服姿の方は目を細め、猫のように笑む。
( ´_ゝ`)「「でもさ、どっちかが死んでも、こうやってまた新しい悪戯出来てんだから、いいんじゃね?」」(´<_` )
同時に言い放つ双子を見、厭そうに顔を歪める。
('A`)「お前等、最悪だよ」
( ´_ゝ`)「「知ってるよ」」(´<_` )
===
=6==
(´<_` )「兄者のバイト先は何時来ても人が居ないな」
( ´_ゝ`)「ん? ああ、まぁ深夜だしな」
(´<_` )「ここは一つ人の集まりそうな噂のたつような悪戯でもしてみるか」
( ´_ゝ`)「減俸されたら嫌だから止めてくれ」
(´<_` )「大丈夫だ、兄者は意味もなく外面が良いから、言いくるめを使うんだ」
( ´_ゝ`)「俺そんなスキル持ってる自信無いよ」
兄が疲れたようにシャツの首元のボタンをいじる。弟は兄の発言を完全に聞いていないらしく、顎に手をやりスモッグで曇った夜空を見上げてあーでもないこーでもないと思椎に暮れ始めていた。
そんな弟を見て、溜息を吐く。
(´<_` )「ターゲットはやはり客だよな。今此処にわしが通らなかったか? ばかもーん、それが兄者だ! とか」
( ´_ゝ`)「それ何て三世? それなら寧ろ……」
弟が提案し、兄が意見を深める。街灯に照らされた二人は心底から楽しそうに次の悪戯を考えていた。
だから、信号を無視して突っ込んでくる乗用車に気付かなかった。
衝撃は一瞬。
===
=7==
横並びになっていた二人を跳ね上げ、赤い車体は黒いブレーキ痕を残して止まった。上滑りするような薄っぺらいブレーキ音に伊藤は顔を顰めた。
べしゃりと生々しい肉の落ちる音が開いていた窓から車内に入り、伊藤の心臓を握る。
これだから夜勤なんて嫌だったのよ、嫌だって言ったのに!
理不尽な怒りが一瞬脳味噌を涌かせて、其れから瞬時に冷却された。交通事故だ、と他人事のように考える。バックミラーを除くと、口紅の塗られた唇がわなわなと震えているのに気付いた。
('、`;川「あ、……あ、ああああぁ」
伊藤はシートベルトを外すのももどかしく車から弾き出る。やってしまった、と言う言葉が頭の中をくるくると舞った。
きゅうきゅうしゃ、と舌足らずな言葉が口の中で暴れ回る。
同じくらいの背丈、同じような顔つきをした二人の青年が道路にだらりと横たわっていた。混乱した頭は一瞬分裂してしまったのだと警報を鳴らす。
片方の青年は頭から血を流している。その量はそう多くは無いが半開きになった目はおぞましく、口からこぼれる赤い泡は気持ちが悪かった。意識は無い。少なくとも、人としての意識は無い。
もう片方の青年は、混乱したように瞬きを繰り返し、尋常では無い方向に折れ曲がった腕を自分の片割れに向かって伸ばしている。
その足のフォルムも何だか異常だ。呻きともとれる声とともに漏れる呼吸音は、まるで機械のようだった。
( <_ )「……ぉ、」
ひゅうひゅう。
( <_ )「……とじゃ、どうし、……?」
ひゅうひゅう。ひゅうひゅう。ひゅうひゅう。ひゅー、ひゅ。
青年は這いずるようにして片割れに手を伸ばす。あらぬ方向を向いた腕は片割れに向かっていない。それでも、求めるように。
('、`;川「あ……、だ、大丈夫?」
大丈夫な訳が無い。聞かなくとも素人目にさえ分かる。伊藤はは、青年達に向かって伸ばした手をスーツのポケットに引っ込めた。おぞましくて、触れられなかった。
頭がくらくらと螺旋を描く。
ひゅうひゅう、ひゅうひゅう。
やけに大きい呼吸音が伊藤の脳に響き、感情を置いて行け堀にして涙腺が塩水を分泌した。
( <_ )「……おまえが死んだら、どうやって悪戯すればいいんだよ」
震える手で携帯電話の1と1と9を押す伊藤の耳に、やけに明瞭なその言葉がこびり付いた。
===
=22==
がた、とドクオが席を立つ。
(´<_` )「お、帰るのか?」
('A`)「……用事思い出した」
( ´_ゝ`)「また来いよー」
ちゃらん、と代金を机に落とし、憎憎しげに、さりとて楽しそうに顔を歪めた。
視線の先の双子は、鏡のように微笑んでいる。
('A`)「もう絶対来ない」
( ´_ゝ`)「「んな事言うなって」」(´<_` )
てぃうんてぃうん、と電子音と共にゆらゆらと店を出ていく背中を見つめ、くすくすと子供のように笑い合う。
その姿は、丸で鏡のように。さりとて、全く逆反対に。
===
=23==
( ´_ゝ`)「俺ら、どっちがどっちだったっけな」
(´<_` )「忘れちゃったよな」
( ´_ゝ`)「「どっちが死んだかなんて忘れたよな」」(´<_` )
( ´_ゝ`)「どっちが兄者だっけな、愚兄」
(´<_` )「どっちが弟者だっけな、愚弟」
( ´_ゝ`)「昔入れ替わってそのままかもしれないしなぁ」
(´<_` )「我らながら分かんないよなぁ」
( ´_ゝ`)「まぁ、生きてるのはお前だしな」
(´<_` )「死んでるのはお前だもんな」
( ´_ゝ`)「こうやって悪戯も出来てるし、どっちがどっちかなんて」
(´<_` )「どうでもいいよな」
言い合って、にっこりと笑う。
===
=3==
( ´_ゝ`)「わたなべせんせいめっちゃこわかったな」
(´<_` )「いつもはしずかなひとがひょうへんするとはこのことだな」
( ´_ゝ`)「ねんのためなふだをこうかんしておこう、あにじゃ」
(´<_` )「うん」
( ´_ゝ`)「じゃあきょうからおれがあにじゃだ。わかったか、おとじゃ」
(´<_` )「ん……わかった」
( ´_ゝ`)「ぜったいだれにもいっちゃだめだからな」
(´<_` )「あにじゃこそ、いったらだめだぞ。にいちゃんなんだから、しっかりしろよ」
( ´_ゝ`)「……それはじしんないけど」
(´<_` )「おま……」
===
=24==
( ´_ゝ`)「「流石だよな、俺ら」」(´<_` )
===