1
『世界で一番可哀想なひと、だぁれだ。「寂しい」あたしの世界はからから回る。からからに乾いた声が世界を斬り咲いた。誤字じゃないよ、誤字じゃないんだよ。
毛布を引きずって真っ白な其処を歩く。あたしの歩く後ろに、さかさかと草が繁茂し、花が咲き乱れ、枯れ散っていく。「寂しい」花と一緒に思考を散らす。からか
らに乾いていた世界がぐらぐらに砕けた。「遅くなってごめんな…」彼女は泣いていた』
がりがり。
がりがり。
lw´‐ _‐ノv「うーん、これは」
がりがり。
がりがり。
2
手が止まらない。
lw´‐ _‐ノv「我ながら気持ち悪い」
『つるつるしこしこの麺。白濁色のスープは勿論豚骨。チャーシューは暖かいものを崩れないようそっと乗せる。「ラーメン一丁上がりー!」お客さんじゃなくても全
力を尽くす。それが私の唯一の信条だった。どん、とどんぶりをそいつの前に置く。あろうことか軽く引いたような表情をして、そいつはおそるおそる私に問いかけ
た。「あの、箸が無いんだけど」』
がりがり。
がりがり。
3
lw´‐ _‐ノv「止まれよ、書き直せよ、気持ち悪いよ私。つまんねーだろこの短編」
昔から活字中毒の気があった私が文を書き出したと知ったとき、姉は「ぅえきもっ!」と言った。
その時はかなり本気で殺してやろうかと思ったけれど、こうまでくると確かにきもい、と頷く。
手は恐るべき速度で滅茶苦茶に文を紡いでいく。
何時からこんな風になったんだっけ。
そんな風に暢気にため息なんかを吐いている間も。
がりがり。
がりがり。
4
『私、素直シュールは杉浦ロマネスクに好意を抱いているらしいと知ったのはつい先日の事だ。私は驚愕のあまり読んでいた本を取り落としてしまった』『朝ピー、
という珍妙なあだ名の友人は今日も図書室で小難しげな本にかじり付いている。ありゃ生粋の本の虫だよと何時だか弟者は言っていた』『クーの恋人は本を読ま
ないらしい。彼は本で情報を認識するのを嫌悪しているのだそうだ。とても勿体無いと思う』
頭の中に文字が氾濫して、溢れ出す。それが勝手に手に流れ込み、私の手は米粒のような細かい字を描いていく。
もうその運動は『書く』と言うよりも『吐き出す』と言う行為に似ていた。
拒食症の少女が食べたものを吐き出すように、撒き散らされた紙に文字を刻む。
lw´‐ _‐ノv「とーまーれーよー」
泣きたい。
がりがり。
がりがり。
5
『手のひらの傷をなぞり、ワカッテマスはにこりとも笑わずに「愉快です」と言った。何処がだよ、と恋人君は顔を攣かめる。本の形状自体は大好きだと言って
いた彼は、本棚に囲まれて少し楽しそうだった。変態だ』『ハインリッヒは言葉を紡ぐ前に私の顔を覗き込んだ。お前、ねじのかいてん、すきだろ。私は驚愕し
て叫んだ。「なんで分かったのだね?」「俺も好きだから、何となく分かるんだぁ」』
がりがり。
がりがり。
私の日常が文字になって流れ出していく。虚構になっていく。
lw´‐ _‐ノv「いやだよぉ」
友人が文字に。私の感情も文字に。大好きな人も、文字に。
がりがり。
がりがり。
6
『図書室に入る。何時もの様に入り口の雑誌コーナーで新聞を山積みにし、端から端まで読んでいる弟者に声をかける。おはようと言うと「尾鷲市の去年の降水量
は全国平均を大きく上回り、」と記事で挨拶を返された。それから進むと科学本をたらたら読んでいるハインリッヒに出会う。よっと手を上げると此方も見ずによっと返
された。朝ピーは閲覧スペースで冗談のように分厚い本にしがみついている。挨拶をしても返事が無さそうなので放って置いた。クーは学術書のコーナーから顔を出
し、おはようと少し微笑んだ。私も微笑み返す。その奥の洋書の書架にもたれ掛かるワカッテマスにも一応手を振る。面倒そうに踵を打ち鳴らす音が返事として返って
きた。そしてきびすを返して書庫の方へ向かう。巨漢と言ってなんら問題ないそいつの背中を見つけた。私は上靴を履いた足を大きく上げる』
がりがり。
がりがり。
学校の書庫の奥、大きな窓と小さな机しかない監獄みたいなその部屋に私の刻む音だけが響く。
元、司書室。現、何かの部屋。
クリーム色に見えるその壁は、みっしりと黄色いペンで書かれた字で染められている。気持ち悪い。
因みにそれを書いたのは私だと言う事実。気持ち悪い。
lw´‐ _‐ノv「気持ち悪い。きもい。我ながらきもい」
がりがり。
がりがり。
7
lw´‐ _‐ノv「止まれよ、私の手。私の物の癖に。止まれよ。止まれよ」
がりがり。
がりがり。
lw´‐ _‐ノv「あーもう、この、」
「止めるが良いよ」
8
『後ろからかけられた声に私は振り返る。巨漢と呼んで間違いない、イヤに学ランの似合わないそ』いつは、真顔のような、微笑んだような顔で私を見た。
なによと私は素っ気なく言う。間にも忌まわ『しいこの右手は字を刻む。それにしても、とロマネスクは私の手元を睨みつけるようにして見た』
( ФωФ)「気持ち悪いな、お前」
lw´‐ _‐ノv「知ってらぁよ」
『くっくっとロマネスクは喉に引っか』けたように笑う。『私は少し不機嫌になりながら返事を返した。そう怒るで無いよ、と低く落ち着いた声に私は少しだけ安心する』
( ФωФ)「全く、難儀なものだな」
lw´‐ _‐ノv「自覚しとるわぃ」
( ФωФ)「手だけが別の生き物みたいで、ちょっと怖いぞ」
lw´‐ _‐ノv「承知千万せ。おまさんなんかよりずっと」
9
暖かい陽気が窓の『外からさんさんと降り注ぎ、部屋の空気に染み込む』
くそっ思考を手に取られた。
( ФωФ)「手、寒く無いか」
lw´‐ _‐ノv「寒い。悴んで書けない」
( ФωФ)「なら書くな」
lw´‐ _‐ノv「書かないと死ぬ」
( ФωФ)「お前、気持ち悪いな」
10
そう言われれば普通は落ち込むのだろうけれど、ロマネスクのその言葉は不思議と不憫そ『うな匂いを出していて、私は風邪の日にお母さんに心配して貰えた子
供のような気分にな』る。
ロマネスクはすいっと床に散らばった紙を持ち上げた。そこには乱雑に塗り潰された私の日常。
『静寂の音と私のペンの刻』む音が部屋を支配する。窓からの陽気とは裏腹にかちかちに悴んだ手は『とうとうペンを手放す。からんと乾いた音にぴくりとロマネスク
が反応した。私は今度はありもしないパソコンのキー』ボードを叩く羽目になった。端から見ればピアノの練習をしているように見えるだろう。
( ФωФ)「手、大丈夫か」
lw´‐ _‐ノv「んなわきゃ無い」
( ФωФ)「昼、食べたか」
lw´‐ _‐ノv「食べてない」
( ФωФ)「食べろ」
lw´‐ _‐ノv「食べれない」
( ФωФ)「何か飲むか」
lw´‐ _‐ノv「水」
( ФωФ)「ココアしかない」
lw´‐ _‐ノv「じゃあいらない」
( ФωФ)「飲め」
11
ポケットに入っていたんだろうブリックパックを押しつけられる。片手で透明なキーボードをタイプする事になったが、水分はありがたかったので、素直に礼を言って受け取った。
砂糖水のように甘いココア。ロマネスクの体温でぬるまっている。
lw´‐ _‐ノv「甘い」
( ФωФ)「ココアとはそういうものだ」
lw´‐ _‐ノv「おいしい」
( ФωФ)「ココアとはそういうものだ」
lw´‐ _‐ノv「ありがと」
( ФωФ)「我が輩とはそういうものだ」
lw´‐ _‐ノv「訳わかんない」
空っぽになったブリックパックをロマネスクに投げつけて、さてとタイプを開始する。
12
( ФωФ)「もう止めるが、良いよ」
後ろから声をかけられた。
私は泣きそうになる。
陽気だけがクリーム色の壁を焼いた。
lw´‐ _‐ノv「止められない。止まらない」
( ФωФ)「かるびーかっぱえびすん」
lw´‐ _‐ノv「シネ」
( ФωФ)「死なんよ」
からからとロマネスクは笑う。
私は泣きそうになる。今にも。
13
lw´‐ _‐ノv「だめだよ。書かないと死ぬ」
( ФωФ)「死なんよ」
lw´‐ _‐ノv「死ぬんだよ。死にたくないよ。もうやだ」
( ФωФ)「なんでだ」
lw´‐ _‐ノv「ロマの所為なんだから。ろま子がわたしの小説が読みたいなんて言うから、」
( ФωФ)「……さりげにろま子とか呼ぶな」
lw´‐ _‐ノv「もうやだ。もうやだ。もうやだ。皆字になる。虚構になる。やだやだ。だからやだったのに。やだったのに」
( ФωФ)「……すまん」
lw´‐ _‐ノv「もうやだ。もう、いやだぁ」
( ФωФ)「……すまん」
だんだんと声がからからに乾いていく。私は子供が駄々を捏ねるように捻くれ曲がった大声を出した。ロマネスクは毅然とした声で私に謝る。
全ては冬の陽気に溶かされて虚構になっていく。詰まらないなんて話じゃあない。
私の手の中に世界が溶かされていく。
14
lw´‐ _‐ノv「ろま、ろま、ろまが字になる」
( ФωФ)「ならんよ」
lw´‐ _‐ノv「なるよ、今なってるよ。見えないんだ。読んでしまう。お前は、本当に、其処に居るのかい?」
( ФωФ)「おるよ」
lw´‐ _‐ノv「ならば、何で触れない? もうやだこの世界。もうやだこんな虚構」
( ФωФ)「ここに、おるよ」
ロマの大きな腕が私を抱き締めた。
15
从 ゚∀从「甘ァアアアんぐふ!」
川 ゚ -゚)「こら阿呆、ばれる!」
(;-@∀@)「痛い痛い痛い痛い狭い狭い狭い」
川 ゚ -゚)「是は萌えるなー。お姉さんもっちもっちだ」
( <●><●>)「訳分かんないのはわかってます」
('、`*川「やっべ、超やっべ。私これで小説一本書けるよ」
(´<_` )「書くなよ」
川 ゚ -゚)「まじか。売ってくれ」
('、`*川「一週間猶予をちょうだい。こてっこてのスイーツ(笑)書いてあげるわ」
('A`)「……もうやだこの虚構たち」