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ブーン系小説の感想を書いたり書かなかったり
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    ラノベ祭り投下
    絵→NO.40

    ――――

     ぱたぱた、と明るい部屋にタイプ音が響く。ぎしりと座った椅子が軋んだ。

    「何、やってるの」

     後ろから聞きなれた声が聞こえてくる。其れに強いて冷たい声を作って私は答えた。

    「ああ、追悼だよ」

    「ついとう?」

    「友達の思考をトレースして、ネットに流してやろうと思ってね」

    「ふうん」

    「ネット廃人だったから、さぞ喜ぶとこだろう」

     コーヒーの香りが鼻をくすぐる。ぱたぱたというタイプ音は続く。後ろで、多分フローリングに座っているのだろう、衣擦れの音がした。
     小さなその音に耳を傾けていると、更に小さな呟きが聞こえてきた。

    「うらやましいな」


    川 ゚ -゚)「写真のモデルになってくれないか」

    屋上でぼんやりしていると、後ろからそう声がかかった。
    振り返ると、長い黒髪を風にたなびかせた女が立って、まっすぐに俺を見つめていた。
    数瞬、沈黙と風切り音が俺の世界を満たして、通り過ぎる。

    川 ゚ -゚)「写真のモデルを探していたんだ。君、なってくれないか」

    ひゅう、と誰かの息遣いのような風が耳元をよぎった。

     

    よし、死のう。
    緩い決断は友人とマックを食べている時に下した。なんとなく。
    理由は特に無い。
    楽しそうに彼女の話をするそいつが憎たらしかったからかもしれない。

    ( ^ω^)「だから、その時は取りあえず学校に戻って、」

    俺が全く気づいていないのにも気付かず、話を続ける友人に残っていた塩漬けポテトをトレイごと押し付け、席を立つ。

    ( ^ω^)「おっお? ドクオ?」

    ('A`)「ちょっと用事思い出したから、学校行くわ。ポテトやる。塩辛くて食えねぇ」

    不可思議そうな顔をした友人は「制作残ってるのかお?」と首を傾げた。曖昧にお茶を濁して、頷く。

    ( ^ω^)「でもこの前終わらしたって言ってたお? 気に入らなかったのかお?」

    ('A`)「いや、勝手に作ってる奴だけど、レンジの中に放置しっぱなしな気がしてきた」

    ( ^ω^)「おおっ! それはやべぇお! 爆発したらどーすんだお!」

    ('A`)「いや、爆発はしないから……だから、ちょっと見てくる」

    ( ^ω^)「分かったお。このポテトは僕が責任もって処理しておくお」

    ('A`)「ん、頼んだ」

    ( ^ω^)「その代わり今度ペアリング作ってくれお!」

     

    ('A`)「おま、材料費は出せよ」

    友人に手を振りつつ、マックを出る。我らがブーン芸術大学は此処から三十分ほど歩いた場所にある。
    運動不足にはなんとなく辛い距離だが、駅はこれまた遠いので歩く。途中で缶コーヒーなど買って啜りつつ。

    ('A`)「……思いついたら即行動、これあほな男子学生の基本な」

    呟きながら、我が学び舎を見上げた。五階立て屋上解放。あるのは白い柵のみ。
    因みに人気は無い。解放されてるからだろう。

    ('A`)「あ、先輩」

    ( ´_ゝ`)「お、どっくんだ。うぃす」

    ('A`)「卒業制作すか」

    ( ´_ゝ`)「おうよ。中でやってたら五月蠅いからって放り出された」

    ブルーシートの上には凄まじい量の木屑が散らばっていた。体中にその木屑をくっつけながら、先輩はへらっと笑った。

    ('A`)「就活、どうすか。はかどってます?」

    ( ´_ゝ`)「んー、ぼちぼちやばいな。ニート直行やもしれん」

    ('A`)「まじすか」

     

    ( ´_ゝ`)「まぁ、ちょくちょく仕事も入ってるし、珍しいから出張ショー依頼なんかもきてるから、当分は、なんとか」

    ('A`)「ほえー……ショーとかもありですか……」

    ( ´_ゝ`)「最悪あれ、木こりになるわ」

    へにゃへにゃと笑い、マスクを着ける。どうやら休憩は終わりらしい。危ないし五月蠅いから離れんさい、とくぐもった声と手で俺を払った。
    ばるん、とエンジン音が木霊した。先輩がストラップを引っ張る度、耳をつんざくような轟音が辺りに響きわたる。
    歩いていた人々がこちらを伺うが、先輩は気にも留めずに木の塊にチェーンソーを振るった。
    溶けかけたバターにナイフが刺さるように木塊に刃が滑り込む。

    大雑把な動きで精巧に彫られていくのは、確かに

    ('A`)「先輩、流石っすよ……」

    先輩の嫁(自称)だった。
    俺のつぶやきが聞こえる筈が無いのに、先輩はこちらを振り向いて親指を突き出した。
    尊敬すべき(ほどの阿呆)先輩に、敬礼してみた。あんたオタクの鑑だよ。

     

    世界最高(の阿呆)の先輩のもとからそっと離れ、校舎に向かう。
    エントランスを抜け、工房の前を通り過ぎて、不意にチェーンソーを振るう先輩の後ろ姿を思い浮かべた。
    逞しい、とは言い難いが、少なくとも俺よりはがっしりとしていた腕。

    ('A`)「屋上、どっちだっけ」

    頭がぼんやりしてきた。


    曇天の空が頭のすぐ上にあるような気がして、只管息苦しかった。
    ひゅう、と風が後ろから通り抜ける。早く死んじまえ、と後押しされている気分だった。

    よし、死ぬか。

    どこかでチェーンソーのエンジン音が鳴り出した。心地よく鼓膜を揺らすその音色に瞳を閉じる。

    ('A`)「ひーとみーをとーじてーきーみをーおもーうよー……うん、恥ずかしいわこれ。さっさと死のう」

    呟いて、柵に足をかけたところで、ぱしゃり、と軽い音がした。
    少しして、カメラのシャッターを切る音だと気付く。背中側から聞こえた其の音に、思わず振り向いた。

     

    川 ゚ -゚)「写真のモデルになってくれないか」

    時間は冒頭に戻る。

    ('A`)「………は?」

    川 ゚ -゚)「初めまして、では無いのだが覚えていないようだから名乗ろう。私は沙緒空と言う。
         君と同じブーン芸大の二年だ。造形科だが、趣味で造形写真を撮っていてな。それのモデルをやって欲しいんだ。
         えぇと、君は確か彫金科の一人塚くんだよな」

    ('A`;)「……お、おおぉおお?」

    「取りあえず話を聞いて欲しい。給金は出せないが私の出来る限りのお礼はしようと思う。
    少々恥ずかしいかもしれないが、何、コスプレだと思ってくれ。それでだな、」

    つかつかと寄ってきたかと思いきや、がっしと俺の腕を掴む。予想に反して握力の強い指が腕に食い込んだ。

    ('A`;)「ま、ちょ、待って、何をいきな、」

    川 ゚ -゚)「とにかくこんなところではおちおち話も出来ん。食堂で良いか? 奢らせてもらおう」


    ぐいぐいと引っ張られていく。それに引かれるままに俺は情けなく食堂までつんのめりながら着いていった。

    川 ゚ -゚)「すまないな、ちょっと待っていてくれ、注文してくる。お前は何が食べたい?」

    ('A`;)「あ、じゃあ、コーヒーで」

    しどろもどろになりながら答えると、沙緒はかくりと首を傾げて「それだけで良いのか?」呟いた。

    川 ゚ -゚)「お昼時だし、私も食べるから遠慮せず食べて貰いたいのだが」

    ('A`;)「さ、さっき食べてきたから」

    川 ゚ -゚)「ふむ、なら良いか。食べ過ぎも良くないしな」


    さらりと言い放って、颯爽とした足取りでカウンターに向かってしまった。
    どうしよう、と俺は途方に暮れた。沙緒は基礎演習のクラスメイトだった。
    さらりと長いストレートのよく手入れされた黒髪に、それに似合う和風美人な顔立ち。
    凛とした空気を纏っていて、何となく近づき難い印象を受ける。

    だからか、何時も教室の端の方で一人授業を受けているのをよく見た。
    決して寂しそうなんて事は無く、『孤高』の二文字が良く似合うその姿。
    綺麗だな、と思っていた。

    話してみたいとか、そういう思いは端から湧かなかった。
    何故なんだろう、と内藤に聞いてみたら「絵画に話しかけようと思う奴はいないお」だからだそうだ。
    それは言い得て妙だな、と思った。
    沙緒は、絵画じゃなくて人なのに、けれども頷けた。

    ('A`)「なのに、なぁ」


    目の前でカルボナーラと海草サラダとフルーツサラダとポテトサラダをがっつく沙緒は、絵画と言うよりも一人の大食い少女に見えた。
    どんだけサラダ食うんだお前は。

    川 ゚ -゚)「……ん? どうした。見られると食べにくいんだが」

    ('A`)「あ、や、ごめん」

    慌てて謝って、その場凌ぎにコーヒーを煽った。煮詰まった苦くて不味いコーヒーに顔をしかめる。
    俺がコーヒーをちびりちびりと半分まで飲んだ頃、カルボナーラとポテトサラダと海草サラダを食べきった沙緒は、けふりと一度咳をしてからデザートのつもりらしいフルーツサラダにフォークを突っ込み、

    川 ゚ -゚)「で、だな。モデルになって欲しい訳だ」

    さくり、と林檎にフォークを刺しながら言った。

    川 ゚ -゚)「君が撮りたいんだ。いいか?」

    ('A`)「いや、え? ……俺を?」


    改めて聞き直す。

    ああ、と沙緒は頷いて、ぱしゃり、と軽い音がした。何時の間にやら沙緒の手には小さなデジタルカメラが収まっている。
    先ほどからのぱしゃりは、どうやら其れが発生源らしい。

    ('A`)「俺なんて撮って、何が楽しいの」

    川 ゚ -゚)「楽しい、というかな」

    むう、と沙緒は顔をしかめる。

    川 ゚ -゚)「イメージが合っているんだ。ああ、なんと無くな」

    なんとなく、と更に付け足す。

    川 ゚ -゚)「私が撮りたいのは『物語』なんだ。設定に合う『絵』が、撮りたいんだ。
         そのキャラのイメージに君はぴったりだった。だからモデルを頼んでいる。分かるか?」

    ('A`)「……あ、ああ?」

    川 ゚ -゚)「だから、頼む」


    真剣な色合いの瞳が此方を見る。その眼力に思わず上半身を引かせてから、口ごもる。

    ('A`;)「か、考えさせて……」

    呟くと、沙緒はむむ、と眉根を寄せた。

    川 ゚ -゚)「む、振られたか。まぁ良い、諦めず根気よくアピールして行こう。覚悟しておけよ」

    びしり、と指を突きつけられ、あぐ、と思わず顎を引く。

    川 ゚ -゚)「じゃあ今日のところは帰ろうと思う」

    がたりと席を立ってから「あ」と沙緒は俺に向かって携帯を突き出した。

    川 ゚ -゚)「アドレスを交換してくれないか。連絡出来るようにしたい」

    ('A`)「あ、ああ……望むところだ」

    適当に思いついた返答すると、沙緒は不思議そうに首を傾げた。


    アドレス帳を眺める。
    沙緒  空と素っ気なくフルネームで登録されているそれには、画像が添付されていた。
    サムネイルではただの白い画像に見えた、がなんだかぽつぽつと黒い黒点が真ん中あたりに並んでいた。
    興味をもって、開いてみる。

    『お友達から始まります』

    始まったそうだ。


    ( ^ω^)「おっお、どう考えてもフラグだお、それ」

    ('A`)「いや、ねーよ」

    ぎぃこぎぃこ、とスキージーを動かしながら笑う。途中の自販機で買ったオレンジジュースが咽を灼いた。
    甘い。

    ( ^ω^)「でもメールとかやりとりしてるお?」

    ('A`)「モデルをしてくれの一点張りはやりとりとは言わない」

    確かに、一瞬、ほんの一瞬だけフラグなんだろうかと考えてしまった。
    俺とて健全な一男子なので、そういうきゃっきゃうふふな方向にことが運ぶのではと一時考えた。
    が、此処一週間の沙緒の態度を見るに、そんなものは一切感じられなかった。
    ちょっと悲しくなった。


    ( ^ω^)「で、どうすんだお? 引き受けるのかお?」

    ('A`)「うん、考え中」

    缶に半分以上残ったオレンジジュースを飲み干す。ひりひりと咽が痛み、声が裏返った。

    ( ^ω^)「引き受ければいいお。それはそれでフラグかもしれないお」

    ('A`)「お前の脳はフラグで出来てんのか」

    スキージーがぎぃこ、と軋んだ。内藤はにやにやと笑って俺をみた。


    川 ゚ -゚)「舞台セットで、少し大がかりなものが作りたいんだが、君の知り合いに彫刻科の学生は居ないだろうか」

    ('A`)「彫刻?」

    川 ゚ -゚)「ああ、木彫りのオブジェを作って貰いたいんだが、生憎私は彫刻は出来ない。
         サイズも大きいから、腕前の良い人に頼みたいのだが、」

    手頃なひとは居ないだろうか、と聞いてくる。
    モデルの件は、結局、押し切られて引き受けてしまった。
    そして現在、何故か工房に赴いてきた沙緒にお茶を出している、という訳だった。因みに荒巻教授からの差し入れの煎茶。
    茶菓子は後輩が商店街の籤引きで当てたおつまみパック。

    ('A`)「うーん、そうだな……」

    バタピーをぽりぽりとかじりながら、沙緒の向かいに腰を下ろす。沙緒がまたぱしゃりとシャッターを切った。
    聞くところによると、これは沙緒なりの友達認定なのだそうだ。
    『親しい奴は撮っていて楽しいだろ?』だそうで。
    俺と沙緒が親しいのかは置いておいて、そい言われればさほど不快でも無かった。


    ('A`)「お前の知り合いには居ないのか、彫刻科」

    川 ゚ -゚)「居るには居るんだが、仏像専門でな」

    ('A`)「仏像か……何か格好良いな」

    川 ゚ -゚)「ああ、格好良いよ。本人はしょぼくれてるがな」

    ('A`)「しょぼくれ……まぁ、そうだな、俺の知り合いには、」

    内藤はイラストデザイン科だし津出は建築科だ。その他にも友人どもの顔を浮かべてみるが、まともに彫刻が出来そうな奴は一人も居なかった。
    が、不意に頭の端でチェーンソーのエンジン音が小さく鳴った。

    ('A`)「そういや一人、居るな」

    川(  )゚ -゚( )「ふ?」


    口いっぱいにバタピーを詰め込んで沙緒は素っ頓狂な声をあげた。

    ('A`)「ふって何やってんだお前……」

    もぐもぐぼりぼりと噛み砕き飲み下してから「いや、ピーナッツが予想以上においしくてな」とお茶を扇いだ。

    川 ゚ -゚)「出来そうな人材が居るのか?」

    ('A`)「うん、まぁ、……彫刻っていうか、チェーンソーアートやってる先輩が居て」

    川 ゚ -゚)「紹介してくれ」

    丸くて意志の強そうな瞳が、目の前で爛々と輝いた。


    ( ´_ゝ`)「遂にこの世界も二次元の仲間入りしたのか?」

    木屑まみれの先輩はぼんやりとした声で言った。制作が終わって虚脱状態に入っているらしい。
    またの名を賢者モード。
    汗もだらだらで手足も棒に引っ付いているだけの用に地面に投げ出されている。
    沙緒は、ちらと先輩を見遣ってから、無言で先輩の制作物を見上げた。先輩はだるそうに、けれど真剣な瞳でそんな沙緒を見た。

    先輩の製作物は、萌えキャラかと思いきや、真面目なオブジェである。

    ('A`)「嫁制作はどうなったんすか?」

    ( ;_ゝ;)「……茂那に怒られて……焼かれた……」

    涙目だった。

    ('A`)「焼かれたんすか……」

     ( ´_ゝ`)「バーベキュー、美味かった……」

    (;'A`)「この後に及んで懲りねーなあんた」


    ふー、先輩は大きく息を吐き、ぐいんと足を大きく振りあげて立った。

     ( ´_ゝ`)「よーし、取りあえず水浴びてくr」

    川 ゚ -゚)「このオブジェは」

    唐突に沙緒が口を開いた。風が吹き抜ける。

    川 ゚ -゚)「あなたが作ったのか」

    沙緒は依然、オブジェを見上げている。奇妙に捩れた形をした、それ。
    先輩は薄く笑ったままで「そうだが」と頷いた。

    川 ゚ -゚)「その、チェーンソーだけでか」

    つい、と見当違いな方向を指さす。先輩は気にせずがりがりと頭を掻いた。髪に滴立った汗が飛ぶ。


    川 ゚ -゚)「これを、作って欲しいんだ」

    がさり、と沙緒が肩にかけていたトートバックから紙束を取り出した。
    三枚のコピー用紙が一つのクリップで留められている。
    先輩は「うん?」と首を傾げてそれを受け取った。

    川 ゚ -゚)「返事はまだ良い。あとでドクオを通じて連絡を入れてくれ」

    無表情で、けれど何処か慌ただしい仕草でデジカメを取り出し、オブジェに向かってシャッターを切る。
    何度も。

     ( ´_ゝ`)「おぉい? 出来れば撮影は許可を撮ってほしいが……まぁいいか」

    川 ゚ -゚)「ああ、すまない。じゃあ、考えておいてくれ。詳細は後日話す」

    最後にぱしゃりと先輩に向かってシャッターを切る。
    『お友達認定』だ。

    川 ゚ -゚)「ドクオ、じゃあ、頼んだぞ」

    何を頼んだのかわからないが、取りあえず頷くと、沙緒は小走りで去っていってしまった。
    後に残された俺と先輩は軽く途方に暮れる。


     ( ´_ゝ`)「あの子何?」

    ('A`)「俺の知り合いっすけど……」

     ( ´_ゝ`)「じゃあ、これ何?」

    紙をばさばさと振ってみせる。分厚い手袋をしているので、掴みにくそうだ。

    ('A`)「……オブジェだそうです」

     ( ´_ゝ`)「……ふん、細かいな。ちえたんだけでは巧く彫れそうも無い」

    ちえたんというのは先輩の愛機のチェーンソーの名前である。

     ( ´_ゝ`)「まぁ何かは知らんが、引き受けた」

    ('A`)「引き受けるんすか?」

    思わず聞き返す。
    先輩はえへらっと笑った。

     ( ´_ゝ`)「思いついたら即行動。これあほな男子学生の基本」

    ああ、これ、この人からの受け売りだったっけ。


    (; ^ω^)「屋上に落書きなんてして良いのかお?」

    スプレー缶を持たされた内藤は困惑した笑みで言った。
    屋上にでる踊り場は、明るくて広い。数人が作業しても何も窮屈では無かった。
    沙緒は内藤の言葉が少々気に入らなかったらしく、不機嫌そうに、

    川 ゚ -゚)「落書きじゃない。絵を掻いて欲しいんだ。テーマは『翼』で」

    困惑した顔の内藤に向かってシャッターを切りながら無表情に言った。
    だだだだ、と言う音の後にか細い悲鳴が耳の中に蜷局を巻いた。
    向こうでは服飾科の渡辺さんが津出になにやら小突かれながらミシンを揺らしている。

    随分と大事になっているらしい。

    川 ゚ -゚)「ツンのおかげで個展を開くことになってな。ビルのワンフロアを使って、写真とセットとその他衣装やら、展示するんだ」

    ('A`)「こ、個展……?」

    川 ゚ -゚)「まぁ皆の共同個展という感じだな。ちゃんと皆の名前を出すつもりだ。代表は私と言うことになっているがな」

    恥ずかしげに頭を掻いて、少しだけ微笑む。
    そう言えば笑った顔を始めてみたかもしれない、とうすらぼんやりした頭で思った。


    ( ´_ゝ`)「うぃーす」

    先輩の気の抜けた声が踊り場に木霊した。同時に「ちゃんと持て阿呆!」と言う声も飛んでくる。

     ( ´_ゝ`)「わぁったわぁった。後は一人で運ぶからお前さんは帰って良いよ。部活抜け出してきたんだろ」

    (´<_`# )「誰が抜け出せと言ったんだ……」

    緩衝材に包まれた何かを抱えながら先輩は自分の弟に笑いかける。
    俺も面識のある弟君は、俺を見つけると「お久しぶりです」と礼儀正しくお辞儀をした。
    先輩そっくりな彼に下手に出られると、なんだかたじろぐ。

    ('A`)「ん、うん。久しぶり。大会はどうだった?」

    (´<_` )「まぁ、ぼちぼちっす。練習してないし」

    ('A`)「相変わらず適当な活動だな……」

    呆れて呟くと弟君は爽やかに笑い、ですね、と頷いた。


    (´<_` )「じゃあ、俺学校に戻ります」

     ( ´_ゝ`)「おう、ばいぶー」

    (´<_` )「兄者しね」

    ( ´_ゝ`)「何というツンデレ……!」

    ('A`)「あ、デミタス先生によろしく言っといて」

    (´<_` )「はい、それじゃっ」

    居心地悪そうに去っていってしまう。
    高校生にとって、大学って言うのはやはりとっつき難い場所らしい。わからないでも無い。

    ( ´_ゝ`)「あ゛ーどっこいしょういち」

    (; ^ω^)「先輩、おっさん臭いお」

    ( ´_ゝ`)「だっておっさんだもの。久しぶりに鑿使ってたらなんかもー疲れた」


    ほらこれ、頼まれてたの。と言って太くて長いそれをごとりと立てる。緩衝材をはずす。
    下に行くに連れてアンバランスに細くなっていくそれは、けれど巧く直立していた。
    天辺あたりに二つほど穴が空いていて、なにやらジョイントできそうである。

    ('A`)「すごい、っすね」

    思わずつぶやいた。不自然な歪で、けれどこれ以上完成の余地は無い。
    木で作ってあるようには見えない、不可思議な物体だった。

    ( ´_ゝ`)「残念ながら完全再現は出来なかったから、かなり俺の歪曲が多いんだかな。ごめんな、くーちゃん」

    先輩は申し訳なさそうにへにゃりと笑い、後頭部を掻いた。

    川 ゚ -゚)「いや、良い。むしろこっちが礼を言いたいくらいだ。こんなに見事になるとは」

    (* ´_ゝ`)「お礼はキスでいいぞ」

    川 ゚ -゚)「だが断る」


    ( ´_ゝ`)「ですよねー……。いいもんいいもん、俺にはちえたんがいるもん。無機物萌えー!」

    ('A`)「先輩……、きもいっす」

    ( ´_ゝ`)「どっくんまで俺を蔑みやがるし……」

    「ぼ、僕はわかりますお」

    ( ;_ゝ;)「……内藤ぅぁぁあああ!どーうーしーよぉおお!」

    内藤に飛びかかる。ぎゃー、と言う悲鳴が木霊して、其れにびっくりしたらしい渡辺さんがミシンを止めてまた津出に小突かれた。
    沙緒は天辺あたりについた穴の具合を確かめ、頷いたりしている。

    ('A`)「うまくいくといいな」

    ああ、どんどん大事になっていく。

    川 ゚ -゚)「そうだな」

    けど、こう言うのも悪く無い、かもしれない。
    ドロドロした何かが頭に分泌されるのを感じながら、思った。


    ぱしゃ、とデジカメが鳴った。

    (;'A`)「あの、……何でみんな見てるの?」

    嫌がらせなの?

    川 ゚ -゚)「いいねいいね可愛いねーよぉしじゃあ次はブラをとってみようかドクコちゃん」

    (* ´_ゝ`)「えーブラは取らないって言ったじゃないですかーって何やらせんだよ沙緒」

    ('A`)「さも俺のように返事をしないでください先輩。後沙緒お前は何やりたいんだ」

    頭の悪い二人に順番に突っ込みを入れる。
    ちぇ、と先輩はにやけ面を正し、屋上の床に座り直した。内藤はぐだぐだと焼き肉さん太郎を食っている。
    その他にも、俺と沙緒を除く四人、総勢六人がなんか居た。


    川 ゚ -゚)『という訳で、今日撮影するから、学校へ来い』

    ('A`)『え? 其のという訳は何に掛かってんだ?』

    川 ゚ -゚)『お前の理解力に掛かっている』

    ('A`)『無謀すぎる……』

    朝唐突に撮影日だと沙緒に言われて、日曜だと言うのに屋上に出向く羽目になった。
    人気の少ないキャンパス内は大層寂れていた。

    ('A`)「もうちょっとなんかこう、事前に言うとか無いのかよ……」

    川 ゚ -゚)「朝起きたらインスピレーションが働いてな。種割れした」

    ('A`)「ガノタだったのかお前」


    从'ー'从「内藤くん、わたしにも焼き肉さん太郎ちょうだい」

    ( ^ω^)「はいですお!」

    从'ー'从「わー懐かしいなぁこれ。ツンちゃんも食べるー?」

    ξ゚⊿゚)ξ「え?! わ、私は、臭いも気になるし……」

    ( ^ω^)「いいおいいお、いっぱいあるからツンも食べなお」

    ( ´_ゝ`)「箱買いか?」

    ( ^ω^)「おっお、浪漫買いと言って欲しいですお」

    川 ゚ -゚)「おいそこの焼き肉さん太郎パーティを開いている輩」

    びしり、と沙緒が四人を指さす。

    川 ゚ -゚)「モデルさまが気にしている。撮影が終わったらまた呼ぶから、適当に時間潰して来い」


    从'ー'从「イエス・マム!」

    ( ´_ゝ`)「ぬるぽ!」

    ( ^ω^)「がっ!!」

    ξ゚⊿゚)ξ「え? え? え? 何? 何処行くの?」

    ( ´_ゝ`)「マクド行こうやマクド」

    从'ー'从「モスがいいなぁ」

    ( ^ω^)「モスありませんお」

    でべでべと歩いていく。あれ、え、そんなあっさり退散すんの?

    ( ´_ゝ`)「終わったら本物の焼き肉パーティしよーなー」

    从'ー'从「その前に集合写真だよぉ」

    ξ゚⊿゚)ξ「あれ? 集合って誰が撮るの?」

    ( ´_ゝ`)「あー、茂那?」

    ( ^ω^)「先生に落書き見られたらやばいんじゃないかお……?」

    そんなことを言い合いながら階段を降りていってしまう。


    沙緒と二人きりになった屋上は、怯んでしまうほど、広い。

    川 ゚ -゚)「ほら、これで満足だろう」

    (;'A`)「ああ……、うん、まぁ」

    沙緒に手伝ってもらい、『翼』を背中に付ける。かちり、と言う音とともに、俺の背中に翼が生えた。黒い片翼。
    こういうセンスは厨二だな、と少々笑ってしまった。

    川 ゚ -゚)「で、次はこれに、こっちを付ける」

    でかい紙袋からまた翼を取り出し、それを片手にオブジェをぱしぱしと叩く。不安定なそれはぐらぐら揺らいだ。
    一枚の翼を手渡され、頼んだ、と任される。翼は本物のように一枚一枚張り付けられている。
    こんなに精巧な翼を何枚も作ったのか、と改めて沙緒を見る。
    目が合いそうになったので目を逸らした。


    ('A`)「お、これは中々……」

    川 ゚ -゚)「流石先輩だな」

    ぱしぱしと叩く。またぱしゃりとシャッター音がした。

    思わず顔を上げると、沙緒は無表情にデジカメを構えていた。

    ('A`)「それで撮影すんのか?」

    川 ゚ -゚)「ああ」

    ('A`)「きちんとした一眼レフとかじゃ無いんだな」

    川 ゚ -゚)「まぁ、趣味だからな」

    大がかりな趣味だな、と言うと「こんなに大がかりになったのは初めてだ」と沙緒は内藤が絵を書いた壁を見上げた。

    川 ゚ -゚)「よし、じゃあ撮影するぞ!」

    ('A`)「お、おう、望むところだ」

    適当に思いついたまま返事をすると、沙絵は不可思議そうな顔をして

    川 ゚ ー゚)「ああ、望むところだ」


    ('A`)「何時が初対面だっけ」

    ぱしゃり、とまたシャッターの降りる音がした。

    川 ゚ -゚)「ああ、基礎演習で何度か同じ机になったりしたな」

    ('A`)「……覚えてね」

    川 ゚ -゚)「そんなことだろうな。私は覚えているが」

    ('A`)「う……、ごめん」

    川 ゚ -゚)「まぁいいよ。そんな感じだ」

    雑談をしながら、ぼんやりと空を見上げる。またぱしゃりとシャッター音がした。
    曇り空独特の眩しさに目を細める。


    ('A`)「大体、俺なんて撮って何が楽しいの」

    川 ゚ -゚)「楽しくは無いな」

    (;'A`)「楽しく無いのかよ」

    川 ゚ -゚)「笑わないしな、お前」

    ('A`)「……」

    川 ゚ -゚)「……」

    ('A`)「……」

    川 ゚ -゚)「……」

    ('A`)「ごめん、無理だった」

    川;゚ -゚)「あ、努力してたのか、今の」

    ('A`)「してみたけど、なんか駄目だった……」

    川 ゚ -゚)「いいよ、笑うな。そのままのお前でいい」

    ('A`)「お、漢らし……っ!」

    今ちょっときゅんときた!


    川 ゚ -゚)「と、言うわけでがんがん行くぞ!」

    ('A`)「い、行くのか……」

    ぱしゃり、とシャッターが切られる。気恥ずかしいかと思いきや、沙緒に写真を
    撮られるのには慣れたのか、案外恥ずかしくない。
    ただ、楽しそうな沙緒が不思議に見える。

    ('A`)「初めて会った時さ、いきなりモデルになってくれとか言われたから、びびった」

    川 ゚ -゚)「だから初めてじゃないと何度言えば分かるんだ」

    ('A`)「あ、いや……、ごめん」

    川 ゚ -゚)「まぁいいよ、総集編だしな」

    不機嫌そうにシャッターを切った。電子音くさい音がする。
    空は見事な曇天だった。
    あの日のように、曇天に心臓が押し潰されそうになる。ぎりぎりときつきつと肺が悲鳴を上げた。
    急に胃が捩れ返り、冷や汗が米神を伝う。沙緒は不機嫌そうな顔のまま、デジカメを降ろした。
    その視線は空を見上げている。

    川 ゚ -゚)「話がまとまらない」

    沙緒は俺を見て、またぱしゃりとシャッターを切った。
    それをぼんやりと見つめながら、ああまただと胃の辺りを押さえる。
    どろどろと濁った黒い生暖かい何かが分泌されて腹の中を浸食する。だらだらと意味も無く涙が流れていた。
    素直の発言が分からない意味も込めて、首を傾げる。
    頬を伝うのは欠伸を五連発した時のような、感情のない涙。


    沙緒がまたぱしゃりとシャッターを切る。慌てて涙を拭い取った。胃酸が喉を焼く。

    川 ゚ -゚)「じゃあ、皆を呼ぶか」

    沙緒は無表情に少しだけ楽しそうを載せて、言った。

    ('A`)「ああ、うん、もう良いのか?」

    川 ゚ -゚)「……そうだな、一度、そこの柵に上ってくれ。天使っぽく」

    ('A`)「天使だったのか」

    川 ゚ -゚)「設定はな。……陰気で死にたがりで黒い翼の、天使。
         そのオブジェは天使の死体なんだ。友人の死体を後生大事に持ち歩いて、死にたい死にたいと漏らすんだ」

    (;'A`)「な、なんちゅう嫌な天使だ」

    川 ゚ -゚)「そして私が自殺しようとした所に現れて、『一緒に死んでいい?』とか言い出して、なんやかんやのうちに変な同居生活が始まる、所まで脳内受信した」

    ('A`)「受信したのか……」


    よいしょと柵に腰掛ける。足の先が床に着かない。少しだけ怖くて、少しだけ愉快だった。

    川 ゚ -゚)「それで、なんかお前がそのイメージにぴったりだったから声をかけた、と言う訳だ」

    ('A`)「へえ……俺のイメージって一体……」

    ひゅう、と風が誰かの吐息のように耳元をなぶった。
    翼がはさりと鳴る。振り返るようにして後ろを見ると、地上五階の風景が心臓を犯す。
    泣きそうになって、失敗して顔が歪むのが分かった。
    顔を戻すと、沙緒は満足げにカメラを此方に向けていた。その背中に少しずれた内藤の落書きが重なる。
    灰色の壁に一面広がるのは、左右対称の大きな両手。真っ白に塗られて、その五指を緩やかに開いている。手首の辺りから極端に細く曲線を描き、中間地点は斑に消失している。
    さながら、翼。
    カメラがあったら撮るのにな。


    川 ゚ -゚)「作品名は、……そうだな、『鶏の鳥瞰』といったところか」

    ('A`)「鶏は飛ばないから鳥瞰は無いだろ」

    川 ゚ -゚)「だからだよ。ひとは飛ばないだろ?」

    ('A`)「……わかんね」

    川 ゚ -゚)「そうかい。ならいいよ」

    どろどろと心臓から黒いなにかがあふれ出す。沙緒は「これが終わったら焼き肉だな」と楽しそうに笑う。
    風が俺の背中に生えた翼を煽る。よく考えたら結構恥ずかしい格好なのかもしれない。下から見られてたらちょっと泣ける。


    ('A`)「焼き肉か……」

    川 ゚ -゚)「焼き肉が嫌なら、何にする?」

    ('A`)「そうだなー」

    そのまま体重を後ろにかける。ぎぎぃと柵が悲鳴を上げた。
    重力が翼を引く。視界が大きくひっくり返って、眩しい曇天を写した。
    沙緒の目が大きく見開かれる。耳を割く様な高い声に名前を呼ばれる。細くて、けれど強い手がこちらに伸ばされた。それに向かって貧弱な手を伸ばしながら、思う。


    もしも助かったら、焼き肉パーティをする前に沙緒に謝ろう。

     

    「どうしよう、ドクオが死んでしまった」

    「どうしようとか言われても」

     ドクオはつまらなそうに『友人』を抱き抱えて私の淹れたコーヒーを啜った。
     私はパソコンに向かいっぱなしで固まっていた背骨を伸ばした。下から順にぱきぱきばきと気泡を吐き出す。

    「なかなか良いネタだと思ったんだがな」

    「先輩、怒るんじゃないか」

    「むしろ怒るのはツンだろうな。書いておいてなんだが、正直存在意義が無い」
     
     机の上におかれた私のマグカップをドクオにとってもらう。絶対に読ませないけれど、という前置きを作れば、登場させた友人達の反応を想像するのは中々に楽しかった。
     先輩は「自分を美化するな……といいたいが現実に忠実だから文句が言えん……なにこれそういうプレイ?」とか言いそうだ。
     渡辺さんは……まず、了読するのに三週間は掛かるな。

     内藤は……、なんというんだろう?

    「どうせなら」

    ミルクも砂糖も入っていない、泥水のようなブラックコーヒーを飲んでいると、ドクオがぽそりと呟いた。

    「この状況を小説にしたほうがおもしろいだろ」

     ばさ、とこの世の材質にはあり得ないような翼を振ってみせる。自殺志願者の天使は、私が作中で私に脳内受信させた状況をおもしろいと形容するらしい。
     全くナンセンスだ、と呟くと死にたい、と不機嫌そうにそいつはコーヒーを煽った。
     私のとは違い、ミルクも砂糖もふんだんに投入されている。嫌がらせくらいに。

    「そんな厨二丸だしな設定に食いつく奴が今時いるのか? え?」

    「いや、いるんじゃないかな……」

     びしり、とパソコンの画面を指差し、序に更新してる。文句やら続きを促す文やらがぱらぱらと表示された。

    「ほう、君は彼らを愚弄するか。そんな頭の悪い設定に、惹かれるひとが居るとでも?」

    「あ……、いや……、ごめんなさい」

    「分かればよろしい」


     だれてしまったので『これで終わり』と入力して、書き込む。
     まばらに読んでくれて居た人々がねぎらいの言葉や文句を言ってくれるのを数分眺めて、パソコンの電源を切った。

    「君の性格はおもしろいから何とかその珍妙なステータスをどうにかしようと思って奮闘したんだがな、書きながら」

    「ながら投稿だったのか……」

    「祭りだしな」

    「すっごい無謀だな」

     コーヒーをずるずると啜る。
     窓からさんさんと秋の陽が振り込んでいる。今日は休日だから、学校に行く必要も無い。
     ツンと渡辺さんから遊びに行かないかとの誘いもあったが、面倒なので断った。


     いい天気だな、と呟くと、死にたくなるくらい良い天気だ、と帰ってきた。マンション五階の陳腐な鳥瞰を眺める。
     作中の語り部のように、どろどろした黒いなにかが分泌されるのを感じながら、私は傍らのやる気の無い天使を小突いた。
     そいつは黙って小突かれた。

    「大体最後の方なんてもうやる気がそがれて削がれて会話文ばっかりだったしな」

    「訳の分からん設定にするからだ。大体俺がもしも大学生だったら、モデルなんて引き受けない」

    「そりゃそうだろうがね。その辺は改変しないと、話が成立しないだろう」


     ドクオはごとりと『友人』を床に降ろし、その表面を撫でた。丸で野球少年が使い込んだバットを労うような手つきで触り、肩を落とす。それから『友人』の頂点に着いた硬い硬質な翼の付け根を忌々しげに掴んだ。
     彼の背中には片方の翼がゆらゆらと揺れている。できそこないなんだと格好つけて彼は言った。


    「下らないものを書いてしまった。ああ、黒歴史だ」

    「なら死ねば良い」


     何の感慨もなく呟く彼の背中に「そうだな」と返した。
     地上五階分の鳥瞰は、いつも通り陳腐で、詰まらなかった。

     さて、明日は何をしようか、と考えながら窓を開ける。

     

    81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/08/30(土) 17:31:47.59 id:mWQ0xlOL0
    これで終わり
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