1
走馬燈というのは、くるくる回る。
俺がこの世のすべての女性を獣+人÷2状態にするにはどうすれば良いか本気出して考えてる途中も、そいつの走馬燈は、くるくる回る。
筈。
( ^ω^)「おっおっお、どっちだおー?」
('A`)「シロアリ」
( ^ω^)「おっ!」
目を閉じたブーンが此方を向いて、ぴょんと段差を飛び降りる。
たしん、と履き潰されたスニーカーが屋上のコンクリートに叩き付けられた。
ぱちり、と瞳を開けてブーンは俺とドクオを見る。
( ^ω^)「おっおー!もう一回するお!」
走馬燈ごっこ、と言うものを知っているだろうか。
用意するものは、三階立てくらいの、屋上にでれて、転落用のフェンスなんかが無い建物、と暇人数名。
一人が屋上の縁にたち、目を閉じてくるくる回って、もう一人に呼びかけてもらいそちらに向かって飛び降りる。
すると、緊張で脳内麻薬が分泌されているため落下時間を長く感じ、屋上から転落したと錯覚した脳味噌が走馬燈を回し始める。
が、走馬燈が回り始める頃には屋上の床に足が着く、という、ちょっと危ない遊びだ。
それを、ブーンと俺とドクオはやっていた。
3
( ^ω^)「どっちだお?」
('A`)「ムカデ」
( ^ω^)「おっ、おっ」
たしん、とまたブーンが床に着地する。もいっかいもいっかいと縁に上って、またぐるぐるやりだした。
くるくると回っている。
( ;^ω^)「ま、回りすぎて気持ち悪くなってきたお……どっちへ飛べばいいお?」
さっきから害虫の名前でブーンに呼びかけていたドクオは、黙っている。
呼ばないのか?と視線に込めて見遣っても、返答は無かった。
黙って、何時も通りぼやっとした瞳でブーンを見ている。
月明かりだけが嫌に眩しい屋上で、その目は酷く虚ろに見えた。
ブーンは俺たちに背を向けて、虚空に向かって話しかけ続ける。
( ^ω^)「どっちだおー? 何か言えお。このまま飛んで良いのかお?」
この遊びを始めたとき、直ぐさま失敗だと悟った。
疑心暗鬼の緊張を利用した遊びだから、俺たち『友達』の言うことを全く疑わないブーンには全く通用しないのだ。
何の緊張もなくドクオの呼び掛けの方に向かって飛び降りる。
走馬燈は、見えていない。
3
( ^ω^)「ドクオー?ジョルー?何か言えお、早くー。降りて良いのかおー?」
痺れを切らしたのか、一歩、踏み出そうとする。
やばい、落ちる。
止めようと俺が走り出すと、後ろで静かな声がした。
('A`)「ゴキブリ」
ドクオの声だった。壁に背中を付け、格好付けて腕を組んでいる。
_
( ;゚∀゚)「落ちるぞ!」
その声に釣られて、叫ぶ。
( ^ω^)「おっお」
くるりと振り返ったブーンは、何時も通り笑っていた。
目は、開いている。
( ^ω^)「ジョルが叫ぶから、吃驚して目ぇ開けちゃったお」
ブーンがくるくると笑った。
俺は氷水をぶっかけられたような気分でその様子を見ていた。ドクオも隣でため息を吐いている。
月明かりに冷や汗が光っていた。
ふらふらした足取りでブーンは此方に戻ってくる。
4
( ^ω^)「これ詰まらんお。何が楽しいんだお?」
_
( ゚∀゚)「お前が規格外なんだよ、色々と」
( ^ω^)「そうなのかお? って言うかドクオ、いちいち呼びかける言葉をゴキブリとかそんなんにすんなお」
('A`)「別にいいじゃん」
いや良くないだろ、と思いつつドクオを見ると、「じゃあ次俺するわ」と腕を解いたところだった。
え、何これ順番なの?
この次は俺の番なの?
( ^ω^)「おっおー、任せとけお」
('A`)「おう」
忍び込んだ学校の屋上、破れたフェンスの隙間に立ったドクオは、なんだか自殺志願者に見えた。
もちろん靴は履いたままだけれど。
くるくるふらふらと頭が揺れる。
ドクオは踊りを踊るように段差の上でくるくると回る。
五回を過ぎた辺りで俺はまた女性だけを獣+人(ryを考え出す。
5
( ^ω^)「おっ、こっちだおー」
見えていないと分かっているのに、ブーンはぶんぶんと両手を振りまくった。
('A`)「っほ」
跳躍の音。
ポケットに手を突っ込んだまま、たしんとドクオが床に降り立つ。
ゆっくりと目を開いて、ぱちぱちと何度か瞬きをした。
_
( ゚∀゚)「走馬燈、見えた?」
('A`)「みえんかった」
ちくしょーつまらん、もっかいだもっかい、と段差を登り、くるくると回り出す。
( ^ω^)「こっちだおー」
獣の種類は統一しようかどうかと言う思考に埋もれつつ、くるくると回る影を見つめて、
('A`)「あ」
( ^ω^)「あ」
_
( ゚∀゚)「あ」
人が消える瞬間を見た。
6
悲鳴の代わりに、どぐしゃ、と言う鈍い音が聞こえる。
(;^ω^)「どどどドクオ?!」
_
( ;゚∀゚)「……え?は?……え?!」
ブーンが走り出す。それに釣られて走りながら、妙に冷静に救急車を呼ぼうか逃げようか下の其れを処理しようか、どれが一番楽な結果になるか、本気出して考えていた。